*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「さぁ、梳きおわったわよ。


本当なら、ここで椿油とかさねかづらを使うんでしょうけど。

あれって、ぬるぬるするし、ねばねばするし、私きらいなのよね」






「…………」






「火取香炉をもってきて、お香を焚きしめてもいいけど。

あれも、煙たいから嫌よねぇ」






「…………」






「じゃあ、このまま外の風で乾かしちゃいましょうか」






「…………」







全ての沈黙を同意と解し、六の君は微笑みながらこくりと頷いた。





扇を二本持ってきた六の君は、右に檜扇、左に衵扇という不可思議な姿で、青年の髪を両手で扇ぎはじめた。





花と緑の薫る春風と、檜の扇によっておこる風は、芳しく快かった。






六の君は青年の隣に並んで座り、ぼんやりと空を見つめながら扇を動かす。






青年はそっと傍らに目を向けた。




明るい光の筋がその瞳に射し込み、白菫色に透き通った。





青年は押し黙ってしばらくそれを見つめていたが、ふいに立ち上がった。







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