サヨナラのしずく
その場に立ち尽くして、目をぎゅっと閉じているあたしを誰かが力強く抱き締めた。




「どうした?」




優しくあたしの耳元で囁かれる声。



目を開けなくても声と匂いと感触で誰だかわかる。



俊平だとわかっただけであたしの中から嫌悪感と恐怖心が消えていった。




「誰かに何かされたか?」


「ううん、大丈夫」




あたしは目をあけながら、首をふってそう答えた。




「何があったか言え」


「知らない男に声かけられた」


「ナンパか」





俊平は舌打ちをしながら低い声でそういった。




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