記憶トリップ
「転校生を紹介します。」


意識が徐々にクリアになっていき、俺は教室の机に頬杖をついて椅子に座っていた。視界には

高2の頃(多分)の担任が何やら転校生の紹介をしていた。


今度はなんなんだ。小5になったり高2になったり、いったい俺に何が起きてるんだ。夢ではないことは確かなんだが…。


頬を抓ってみても痛いだけで、現実にはかわりないんだが。


「桜(さくら)野(の)鈴(りん)です、皆さんよろしくお願いします。」


!?


そうか、この時期だったか。スズが転校してきたのは……。


小5の頃より背も高くなっていて、とても女の子らしくなっていた。


とても美人で、高2の頃の俺はとても戸惑って、声を掛けることは出来なかった。向こうも俺も覚えてなかったのか、話掛けられることもなかった。


何も言えず、チャンスを逃したのだ。当時の俺は。


臆病だった。あの時の俺は。確かにまた会うことは出来たのに、奇跡は起こったのに。


だからこそ…たとえこれが夢だとしても、言わなきゃいけない。


過去の俺が出来なかったことを今やるんだ。


「スズ!」


椅子から立ち上がり、担任やクラスメイトの注目を浴びながら俺はスズの名前を呼んだ。


「あなたは…?」


覚えていなくとも、伝えなきゃいけない。もう伝えず何年も後悔するのは嫌だから。


「お前に給料三か月分の指輪を渡したジュンだよ!」


するとスズは目を見開き、クスッと笑いだした。


「ちゃんと三か月分以上の気持ちはこもってたんだね、ジュン。」


その言葉に俺は笑い、スズも笑っていた。


意識はまた消えていく。夢の時間は終わりということなのか。


でも俺は、不思議と満足していて意識が薄れていくことが不安ではなかった。

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