徒花のリーベスリート
 これでも一応私も、自分を変えようと只管努力してきたつもりだ。
 婚約者なのだから私を一番に想ってくれて当然で、いつも一緒に居るのだって当たり前―――なんて、そんなの思い上がりも甚だしいのだから。
 彼に選んでもらえるように、彼に相応しい人間になろうと思ったからこそ、自分磨きに全神経を使った。
 彼の好みを知りたくて、流行の化粧やドレスに敏感になった。
 気を抜くとすぐに表情や言葉や態度に表れてしまいそうになる棘は、必死に折って抜いて捨て去って。
 習い事も沢山した。最初は料理やダンスや行儀作法といった所謂乙女の嗜みから始まり、次第に男性が興味を持ちそうな政治や経済学に手を付け、果ては家族の反対を押し切るかたちで世界の不思議と魔の法則を学ぶようになった。
 どうにも私は体が弱くて、武芸に関する才能はさっぱりだったけれど、その代わり知識を増やしていく事に喜びを見出していったのだ。
 教えて下さった先生が皆様良い方々ばかりだったことも手伝って、なんと王立学習院の教授の地位を名乗る事を許して頂ける程にまで成長する事ができた。


 しかし残念な事に、私は白百合にも春風にもなれなかった。


 どんなに頑張っても風は風でしかなく、薔薇が百合に咲き変わるなどあり得ない。
 結果として残ったのは、度重なる品種改良に根性が負けた失敗作だ。
 脱色に失敗してみすぼらしい斑のある、散り際の薔薇が一輪。
 気付けば、雑草でないだけまだましな程度しかない、見事ないきおくれが出来上がっていた。
 それでもあえて良くなった所を上げるとするならば、昔はびっしりと生えていた棘が少しは小ぶりになったことだろうか。

 それでもまだ、私のどこかに可愛げが残っていたならば。
 そうすれば、草の根分けて探せばどこかに貰ってくれる男の一人や二人位は居るのかもしれない。
 顔は……まあ、悪くは無いだろう。
 ちょっと目が釣り気味で、いかにも「私は気が強いです!」という顔立ちをしているが、不美人ではない……と思う。
 体力はないが、身体のラインは完璧だ。
 それこそ今まで血を吐く様な努力を重ねたのだから、出るとこ出て引っ込むところ引っ込んでいて貰わないと私の努力が浮かばれない。

 でも、世の中そうそう甘くない。
 下手な男達よりよっぽど頭が回り口も達者で小賢しい女は、彼等にとって見たら眼の上のたんこぶ以外の何物でもなかったようだ。
 どんなに外見を磨いても、内面が美しくなければ価値が無いのと同じ。
 おかげで、頭でっかちな煩い小姑だとか、見た目の派手さと囀る声だけは一人前だ、などと陰口をたたかれる毎日である。

 ……おかしい、こうなるはずではなかったのに。
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