糖度∞%の愛【改訂版】

耳から聞こえる呼び出し音。
ドクドクという音が、大きく体中に響き渡る。まるで心臓が耳についているみたいだ。

真帆が、気をきかせて部署内からそっと出ていくのが視界の隅に入った。
それに、心の中でありがとうと感謝して、コールが途切れるのを待つ。

とりあえず、彼方に会わなくちゃ。
どんな結果になろうとも、会って話して、全てを知らなくちゃ。

そう心に決めたとき、コール音が途切れた。
『はい』という声が聞こえた瞬間、足元が崩れ落ちたような気がした。
頭が真っ白で、声が出ない。


『もしもし? 美崎さん、ですよね?』


彼方の声とは似ても似つかない、甘ったるい、女の声。受付嬢なだけあって、とても可愛い声だ。
思わぬ展開に、ううん、あってほしくないと一番願っていた展開。


『彼方君、今シャワー浴びてるんです。 折り返し電話させましょうか?』


その言葉が本当なのかは分からない。
本当に浴びてるのかもしれないし、彼女の嘘なのかもしれない。

ただ、“させましょうか?”という、いかにも“私の方が彼方に近い存在なんだ”と誇示するような彼女のセリフに、言葉が喉の奥につまって出てきてくれない。


『真田、それ俺の携帯……』


電話の向こうから聞こえてきたのは、まぎれもない彼方の声。
さっきの言葉の真偽はどうであれ、彼方は今あの子と一緒にいる。それは真実だ。

私はその声を聴いた瞬間に、持っていた携帯を無意識に放り投げていた。

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