危険BOY'Sにキスをして。

「はぁ!?」

あたしは、目を剥いた。
ただ、それだけだった。


「…らない!」
「は?」

…でも。
答えは、分かってる。

「知らないッ!」

知るわけない。

こんな最低な奴…
好きでも何でもないんだから。

好きでも何でもない奴とのキスなんて…
記憶から無くしてやるんだから!


「“知らない”か…フフッ」

「何が面白いわけ…!?」

「別に。フフッ」

「…~!」

やっぱ、ヨウと話すとイライラする…ッ!!


「じゅあね、絵梨チャン。
 俺、呼ばれちゃったし、行くよ。」

歩きながら
後ろ姿で 左手を軽く挙げて
さよなら、をする 男。

「俺とのキスの味は
    どうだった?」

ヨウの低い声が
ずっと 耳にウザいほど 鳴り響く。


「アンタ、最低ッ!!」

広い屋上に、あたしの声が響いた。

すると ヨウは。


「最低なのは
  どっちだよ。」

歩いていた 足を止め、
後ろを振り向いて、こう言った。


空にそびえる
琥珀の太陽。

そんな太陽の下の屋上に響く…
たった一つの、
低くて小さな言葉。


「絵梨の馬鹿。」


ヨウは 一言言い残し、
スタスタと 屋上から降りて行った。


「…絵梨の、馬鹿…?」

あたしは 解出来なかった。

ヨウは、いつもあたしのことを
「キミ」 「李鈴」 「絵梨チャン」
と、言っていたから…。


ただ、一つ。

理解出来たこと。


それは…

「絵梨の馬鹿。」

その言葉を言う、ヨウは

とても

とても

哀しそうな目を していた…。
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