Hair cuts
第五章

さくらの記憶

卒業後、無事揃って国家試験に合格した私たちはそれぞれの道を歩み始めた。私は東京へ旅立ち、愛華と浩人、それから遊里はそれぞれ別々のサロンへ入社し、慌しくも希望に満ちた日々を送っていたと思う。

卒業してから一年目、私たちの関係は良好だった。私は約束通り無理をしてでも年に数回は地元へ帰っていたし、そのたびに、四人で集まっては懐かしい思い出話に花を咲かせた。遠距離恋愛は寂しかったけれど、その分少ない時間を濃密に過ごし、遊里ともうまくやっていた。少なくとも私はそう思っていた。

二年目からは、少し帰る頻度が落ちたものの、愛華や遊里へ連絡はおこたらなかった。

三年目に突入すると。それぞれに変化が訪れた。あたしは、これまで勤めていたサロンを辞め、新しい職場にうつった。忙しさは前の職場の比ではなかったけれど、やりがいはあった。新しい事への挑戦は若かった私の胸を高鳴らせ、失敗や困難に立ち向かうたびに奮い立っては強くなれた。でもそうなったぶんだけ、だんだんと故郷への足は遠のいたもの事実だった。その頃になると、私は地元で暮らす外の三人との共通の話題も少なくなっていたから、四人でいても疎外感を感じ居心地が悪かった。。

愛華はこの三年で、三度も職場を変え、ついに美容師を辞めた。職場を頻繁に変えたのは人間関係を上手く築けなかったせいで、辞めたのはおばあちゃんが病に伏せったからだ。浩人は、誰よりも早くハサミを持たせてもらうまでに成長していた。三年目にして、スタイリストから美容師へ昇格し、街で一番大きなサロンで一番期待される美容師になった。同じ頃、遊里の家では、家を出た兄夫婦と両親がようやく和解した。

そしてそのまま時は過ぎ、愛華と浩人は結婚した。その後起こったことを、私は知らない。
< 143 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop