Hair cuts
幸い、俺の怪我は命に別状はなかったものの、切られた右手の神経は傷つき、以前のようには動かない。もうハサミを握る事はできないかもしれない。

これが、俺の受けた罰だとするなら、あまりにも軽すぎる。けど仕方ない。二人は死に、俺は生きている。
 
さくら、会いたいと言ってくれてありがとう。その言葉、もっと早くに聞きたかった。帰ってくるという報告も。

でも、俺は、さくらに会う気にはなれない。会っちゃいけないんだ。俺はさくらを裏切り愛華と寝た。そのうえ、浩人と愛華を死に追いやった。俺のせいじゃないと言ってくれるのはありがたいけど、それは俺が決める事だ。

浩人と愛華の墓参りは、申し訳ないけど一人で行って欲しい。本当は一緒に眠らせてやりたかったんだけど、両方の親族が許さなかったんだから仕方ない。

でも、きっと、あの二人は一緒にいる。血だまりの中で交じり合った魂は、きっとそのまま溶け合って一つになり天に召されただろう。じゃなきゃ、二人があまりにもかわいそうだ。
 
最後に、さくら。愛華のノートを送ったのは、別にさくらを責めるつもりじゃなかった。ただ、覚えておいてほしかっただけだ。どんな酷い出来事も、悲しいことも、時と共にいつか風化して、その痛みはいえていく。

でも、俺たちだけはあいつらのこと忘れずにいてやろう。家族のいないに等しいあいつらの死を、痛み、偲んでやれるのは俺たちしかいないから。

別々の場所でもいい。それぞれ、あいつらのこと思い出してやろう。だって俺たちは本当に仲が良かったんだから。思い出してみろよ。俺たち、あんなにいつも笑ってただろ?

ウィーアーヘアカッツ!って…。

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