Hair cuts
あれから、地元に戻った私は、一年半サロンに勤め、それから、母校の美容学校の教員になった。

遊里の言うとおり、慌しく過ぎる日々は私の痛ましい記憶を風化させていった。

今朝の新聞で珍しくジルの名前を見た。結局、ジルのバンドは二年目には姿を消し、ほとんどその姿をテレビで見ることはなくなっていた。バンドはいつの間にか解散していたのだけれど、久しぶりにジルの名前が世間に知れ渡ったのは、彼が覚せい剤使用の罪で捕まったからだ。

スポーツ紙の三面記事には「元人気バンドのボーカル・ジル逮捕」の文字。

それでも私の心は少しも動揺しなかった。あれほど胸を痛めた出来事も、時が癒し、感覚を麻痺させていく。

愛華と浩人の事件も同じように、私の中で、あの出来事はすべて夢ではなかったのだろうかと錯覚することがある。そもそも、愛華や浩人というと仲間が本当に存在したのかさえわからなくなってくる。

だから私は二人を忘れないためにも、愛華からの手紙を時々読む。親友を、仲間を救うことの出来なかった愚かだった自分を戒めるために。
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