Hair cuts
恋人同士になったとはいえ、私と遊里の関係は変わらなかった。べたべたするでもなく、ラブラブオーラ前回なわけでもなく、まして浩人みたいな堂々交際宣言などするわけもなかった。それゆえ、彼氏が出来たという実感は薄かった。だから、彼氏とはどう?なんて聞かれるとすごく恥ずかしかい。

「付き合い始めたのは、本当に最近なんです」

言い分けするみたいに言うと、

「あら、そうなの?意外。とっくに付き合ってるものだと思ってた。へぇ、最近なの?ふぅん。知らなかった」

同年代の女の子に接するみたいな口調で先生は生徒と接する。だから、生徒たちに「久美」ちゃんと親しみをこめて呼ばれるほど人気がある。

「初め、浩人と愛華が付き合うことになって。そしたら今度はあの二人が私たちをくっつけようと躍起になっちゃって。最初のうちは適当に誤魔化してたんだけど、なんか面倒になってきちゃって。じゃあ、付き合おうかみたいな感じで。だから、あんまり彼氏・彼女っていう実感が沸いていないんですけど…」

絡まったウィッグの髪の毛をコームで崩しながらことの経緯を説明した。先生はローションでがちがちになった部分にフプレイヤーで水をかけながら手伝ってくれた。

目の前のウィッグにはオールウェーブセッティングという国家試験の実技課題の一つであるヘアースタイルがほどこされている。リッチは割れて、ほつれ毛が飛び出て、ピンの向きはばらばらで、あまりに下手くそ。でも、髪の毛をひたすら巻き続けるワインディング課題より、ノーパート7段のオールウェーブとフィンガーウェーブとピンカールによって校正するこちらの課題の方が私は好きだった。同じことを繰り返すには集中力が必要で、だから、集中力のない私は繰り返し作業のワインディングが苦手だったのだ。
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