Hair cuts
「まあ、交際するなとは言わないけれど…」

黙って聞いていた先生が、突然真面目な声を出したので、私は手の動きを止めた。

「でも例えば、別れることになったから、学校やめるとか。そういうのはナシだよ」

目が合うと先生はふっと笑った。私はほっとして作業を続けた。もっと真剣に交際しなさいとか、学生は勉強が第一とか、そんなことを言われなくてよかったと思った。

「そんなこと言いませんよ」

「でも、それで退学した人が去年いたのよ」

「本当ですか?」

「本当です。せっかく夢を持って入学して来たのにもったいないじゃない」

夢、か。先生たちはここへ来る生徒全員が美容師や理容師を本気で目指していると考えているんだなと思うと少し後ろめたい気持ちになった。私がこの学校を選んだのは勉強が嫌いで受験戦争に飛び込む勇気がなく、かといって就職するのは嫌で、だったら、資格や免許を取ろうと考えたとき、美容師ってかっこいいなと漠然と思ったからだ。

でも…。

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