Hair cuts
暑さと電話の控えめな呼び出し音で目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。体を起したのと同時に電話は鳴り止んだ。

エアコンのスウィッチを入れ、さらに、窓も開けた。東京の夏は殺人的だと、毎年思う。ただ熱いだけではなく、息苦しい。まるで東京中の人間が同じリズムで呼吸を繰り返しているみたいに、酸素の量が足らない。

ふと、私は、昨日までいたグアムのことを思い出した。グアムは暑いけれど、含まれる酸素の量がたっぷりとしていて空気が爽やかだった。痛いほどの日差しも、突然やって来るスコールも憎らしいとは思わなかった。ここへ来てよかったと心のそこから思えた。

でも、そう感じられたのは、朝起きたときと、夜眠る前だけだった。一日中砂浜や観光地の島で、歳若きアイドルたちのワガママに振り回されながら仕事をしているときなど、私は一刻も早く日本へ帰りたくてしかたなかった。窒息しそうに苦しい東京の街が恋しかった。

某アイドルグループの写真集撮影のためにグアムへ同行したのだけれど、そのグループというのがなんと二十人組で、学生や、売れっ子、そうでないものが入り混じり、結局グループ全員が同じ日に撮影できる日は限られていて、後は、個々それぞれ都合のいい日に撮影して帰国するというスケジュールだったので、私たち裏方は彼女たち全員の撮影が終わるまで向こうにいっぱなしだったというわけだ。

勿論、観光する時間なんかなかった。
< 5 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop