Hair cuts
黙り込んでいると、突然、ぎゅーでもぐぇーでもない。動物の鳴き声のような音がした。ジルが、ぱっとみぞおちの辺りを押さえ、ようやく、それがジルのお腹の鳴る音だと気いた。

「昨日から何も食べていないんだ」

ジルがへなへなと崩れ落ちるようにその場にへたり込んだ(その後、それはちょっぴり大げさな演技だったと聞かされたのだけれど)。そこで私は、昨日、シンコ先生が持ってきた差し入れのシュークリームを争って食べるバンドのメンバーの姿を思い出だした。(一番顔の整ったギタリストがその時のシンコ先生の若きツバメだったと後に知るのだが)。シンコ先生は若い男の子たちの旺盛な食欲を見るのが好きで、ご馳走魔でもあった。

ジルは座り込んだまま子犬のように私を見上げた。それで私は、ご飯くらいなら食べさせてあげると、うっかりジルを部屋にあげてしまった。そうして、ジルは私の家に住み着いたのだった。
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