魅惑の果実
桐生さんは目配せすると、部屋を出て行った。


その後をすかさず追う咲さん。


私も追いたかったけど、ゆっくりと二人の後を追った。


本当に様子を見にきてくれただけなんだ。


私のために来てくれた……その事がただ嬉しかった。


醜い気持ちが癒されていく。


桐生さんがお店を出て行き、少したって裏で電話をかけた。



「何だ」



暫く鳴り桐生さんの声がした。


思わず顔がにやける。



「車?」

「あぁ」

「また、会える?」



お店じゃなくて、プライベートで……とは言えなかった。


まだ私にも恥じらいはある。



「何処で?」



私の気持ちに気付いているような一言。


カッと頬が熱くなる。



「何処かで……」



その言葉が私の精一杯だった。


貴方に触れられる場所なら何処でもいい。



「変なところで素直じゃないな。 言えよ」

「二人で、会いたい……」

「今日も二人だっただろう」

「そうじゃなくて……美月の時に会いたい」

「よくできました。 お前が夏休みの間に食事にでも行こう」

「うん!!」



そう言って電話を切ったが、あれ?と思った。


夏休みの間って言わなかった?


私が大学生ってことでの夏休みだよね?


含みなんてないよね?






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