魅惑の果実
桐生さんの中で私はいったいどの位置にいるんだろう。


顔合わせたって桐生さんがこの間のことどう思ってるかなんて、さっぱりわかんない。


近くなれた様で、だけど壁が出来た様に感じてしまうのはどうしてだろう。


苦しい。


貴方の温もりに触れたい。



「桐生さん!!」



ノックと同時に現れたのは咲さんだった。


あービックリした。



「いらっしゃいませ」



満面の笑みで桐生さんの隣に腰掛ける咲さん。


何度も見た光景なのに、耐えられなかった。


触れないで……。


その人に触れないでっ……。



「ご馳走様でした」



醜い。


今の私にはその言葉がお似合いだと思った。



「たまたま近くにいたから寄っただけだ。 そろそろ失礼する」

「え? まだいらしたばかりなのに、もう帰るんですか?」



涙目になる咲さんの表情は、私から見ても色っぽかった。


こんな顔ですがられたら、男はイチコロだろうな。


でも桐生さんは咲さんの言葉を無視して立ち上がった。



「本当に帰っちゃう、んですか!?」



危ない危ない!


咲さんの前で桐生さんにタメ口聞くところだった。





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