魅惑の果実
桐生さんにジーッと見られ、落ち着かない。



「何ですか」

「覚えていたんだな」



忘れるわけない。


私の中では最悪最低な出会いで……だけど今まで出会ったどの男性よりも綺麗な人。



「先日は危ないところを助けて頂き、有難うございました」

「キャバ嬢なら、理に削ぐはない事だと思っていたとしても、もう少し感情を込めて言ったらどうだ」



ライターに火をつけ、桐生さんの加えたタバコに火をつけた。



「感謝はしています。 助けてもらった事に関しては。 でも、貴方にあんな言われ方をされる覚えはありません」

「一丁前に怒ったのか? それはすまなかったな」



ムカッ。


そっちこそ微塵も感情篭ってないじゃん。



「何だ、言いたい事があるなら言ってみろ」



この人完全にこの場を楽しんでる。


私がどういう反応をするか面白がってるんだ。



「そんな淡々と喋る桐生さんに、感情がどうのなんて言われたくありません」

「お前、この世界はまだ日が浅いだろ?」

「な、何でですか?」



ヤバイ……。


店長から粗相がないようにって言われてたのに、つい感情的になっちゃった。


素人臭い女を俺の席につけるな!とかって、後で店長にクレームが入るかもしれない。


そうなったら私クビだろうな……桐生さんVIPの中でも特別なお客さんっぽいし。





< 21 / 423 >

この作品をシェア

pagetop