魅惑の果実
ホットコーヒーを手に持った咲さんが目の前の席に腰掛けた。


まだヘアセットされていないストレートの髪の毛。


派手な髪型やメイクじゃなくても、悔しいけどこの人はやっぱり綺麗だと思う。



「もう体調はいいの?」

「まだ本調子じゃないですけど、なんとか……咲さんこそ体調は大丈夫なんですか?」

「うん、私はもうすっかり元気だよ」



この笑顔が怖い。


何を考えてるか分からない。



「桐生さんの事なんだけど……」



きっ、きた……っ!!


笑ってるのに目はマジだ。



「付き合ってるんだって?」

「……はい」

「私のお客さんだよ? 一言くらいあってもいいんじゃないの?」



咲さんが言ってる事はもっともだ。


お店のルールを破ったのは私。


それは謝らなきゃいけない。



「何もお話しなくてすみませんでした……」

「あ、別に謝らなくていいのよ」



怖いくらいの笑顔だった咲さんの顔が、今まで見た事のない程感情の読めない表情を浮かべた。



「謝るよりも、さっさとあの人の前から消えてちょうだい」





< 337 / 423 >

この作品をシェア

pagetop