魅惑の果実
小西さんとの会話に全く集中できなかった。


自然と口からは相槌だったり、言葉が出てくるけど、内容なんて頭に入ってこない。


見えない場所に座ってる桐生さんと咲さんの方に、意識が集中してる。


どんなに意識を向けたって、この距離で会話なんて聞こえる筈ないのに……。



「そろそろ時間だね」

「え、あ……そうですね」

「あれ? まだ食べ足りない?」

「もうお腹一杯です。 ご馳走様でした」



ナプキンで口元を拭い、笑って見せた。


小西さんの冗談めいた言葉に、冗談で返す余裕はなかった。



「行こうか」

「はい」



先に席を立った小西さんが、手を差し出した。


その手を取ると、小西さんが笑った。


この手が桐生さんだったら……。


桐生さんの手の感触なんて知らない。


知らないからこそ想像してしまう。


私が男と手を繋いでいるところなんて見たって、きっと桐生さんは何とも思わない。


桐生さんの周りには、咲さんみたいに綺麗な女性がたくさんいるんだろうな。


私は二人の座る席に目を向けることなく、小西さんと手を繋いだままお店を後にした。





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