こんな能力(ちから)なんていらなかった
「どうした?」
「お粥!」
流は顔を顰める。
「お粥作って!」
「……まさか」
流が顔色を一変させる。
烏を庭に放って走ろうとした流の体を奈々が押し留めた。
「そこまで酷くないから!」
「だが、倒れたんだろ!?」
「落ち着いてってば!!」
「っ!——」
流はしゃがみこむと自分の脛を押さえて悶える。
「おま……向こう脛強打って……」
「流石、弁慶の泣き所。効果覿面」
泣き言を言う流を見下ろして奈々が嬉しそうに呟く。
そしてかがんで、流の横に落ちていた硯を拾い上げた。
「——それ投げたのか!?」
「悪い?」
ポーンポーンと片手で硯ジャグリングをやる奈々の目は赤色に光っていた。
流は奈々の顔に背筋を凍らせる。
「いいから早く作って」
「…………ハイ」
為す術もないまま流は奈々について部屋を出た。