こんな能力(ちから)なんていらなかった
代わりにぽわ〜とした浮遊感がずっとあった。
心ここに在らず、みたいなそんな感じで。
自分がそこにいるということにあまり現実味を感じられない。
まるで夢の中にいるようだ。
というか夢だと信じていたかもしれない。
腕に走る鈍い痛みと不定期に襲う吐気、そして、体の底からせり上がってくる強烈な不快感を除けば。
疼くようにズクンと痛む腕の傷が現実にいることを優羽に教えてくれる。
しかし、今の優羽には現実でいることは寧ろ重要じゃない。
どちらかというと出来れば夢の中にいたかった。
瘴気にやられている間は何故かあの夢を見ずに眠れた。
普段は心の休まることのない真っ暗な世界は、何故かこれ以上ないくらい穏やかに感じられて、優羽はそっと心を落ち着ける。
消えて欲しい現実も。
見たくない夢も。
何も思い出さずに。
今なら眠ることができる——
優羽は瞼を閉じるとベッドの中で丸くなった。
◆
「流っ!」
奈々が襖を開けた時流の部屋には黒い羽が沢山落ちていた。
流の腕には一羽の烏が止まっている。
その烏と流の目が同時に奈々を捉えた。