こんな能力(ちから)なんていらなかった







「しっおっん〜〜!!」

「近寄るな」


 終了式が終わると同時に紫音に飛びついた御岳に、紫音は冷たい声を浴びせかけた。


「……相変わらず、つれないのね」


 そう言うと、御岳は紫音の腕に自分の腕を絡めた。
 それを紫音は無言で振り払う。


「……近寄るなって、言ったよな?」


 紫音はそれだけ告げると一目も御岳を見ることなく立ち上がった。
 そしてそのまま騒がしい体育館を出て行く。


 その様子を遠くから眺めていた唯斗も他のクラスに混じってさりげなく体育館から出た。


 御岳がこの学園に戻ってきてからの約四ヶ月間、クラスの雰囲気はいつも最悪だ。

 中等部からいる人間は紫音がどれだけ御岳を嫌っているか知っているから、特に気にしていない。
 しかし、高等部から入ってきて、尚且つ王子様な面しか見ていなかった連中は最近の紫音の不機嫌さに怯える日々だ。

 そして、その機嫌の悪さに拍車をかけるのが、御岳だ。

 最初は空気読めない奴、ぐらいにしか思っていなかったが、最近は違う。


 御岳は嫌われるのが分かっていながらも絡みに行く。
 紫音を怒らせようとしている、そうとしか思えない。

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