こんな能力(ちから)なんていらなかった



 二人を黙って見ていた唯斗は紫音の後ろに落ちていた、黒い羽を拾い上げる。


「そんな気にしなくてもいいんじゃねぇの?お前あれ渡してあんだろ?」


 紫音は一瞬、視線を彷徨わせた後目を見開いた。


「なんで唯斗が知ってる!?」

「女子が騒いでた」

「…………」


 予想外な情報源だったのか紫音は頭を抱えた。

 女子ってのは目ざといもんだ。
 恋した相手が大事にしているものに関しては特に。


「……——だとしても、あれの意味を優羽は知らない……」

「知らなくても優羽は呼ぶよ」


 唯斗は妙な確信を持った声でそう言った。


「絶対に。だから、待て」


 数秒後紫音は分かったと答えた。

 紫音が羽根を消したのを見計らって晃が手を離す。


「……失礼いたしました」

「いや……寧ろ目が覚めた」


 その顔はさっきまでの鬼気迫るものではなく、唯斗も安心したように息を吐いた。



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