こんな能力(ちから)なんていらなかった








 優羽は意味が分からないといったような表情で男を見つめた。
 男は笑ったままだ。


「……処刑って何」

「処刑の意味も知らないのですか?昔と変わらず、今も大層無知でいらっしゃる……よくもまぁ、そんな頭で王を務めるなんてことできましたね?」


……馬鹿にしてんの?ってか馬鹿にしてるんだよね。


「いや、“処刑”がなんだか分かってないのではなく、何故“処刑される”のかが分からないんだけど」


 少しの苛つきを隠しながら言うと男は煩わしそうに髪を払った。

 綺麗なプラチナブロンドだ。男の周りも基本的にブロンドだ。肌も白い。あちらの世界では黒の色素を持つ人は少なかったのだろうか。


「……ふざけるのも程々にしてくださいませんかね?」


 剣のある声で優羽は髪から男に意識を戻す。
 男は笑顔だ。だからこそ、その言葉の棘が際立つ。


「あなたが私達にしたことを忘れたのですか?」

「あなた達にしたこと?」


 私は何もしてない、と言おうとしたところで自分と同じ姿の人間を思い出した。


本当に私を王様だと思い込んでいるんだ————


 優羽は小さく舌打ちをする。

 こんなことになるなら後回しにしないで、もっと紫音から話を聞いておけばよかった。
 持っている情報が少なすぎる。

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