代償
「遅かった………って、文香!?」
勇人さんの家に帰る。
驚愕の表情で、私を出迎える。
「何があった?顔、真っ青だぞ」
「ううん………何でもないから」
「嘘つけ。何した」

キャーラに会った。
なんて、言えず。

「ちょっと、体調が悪いだけだから」
「………そうか」
「部屋、入るね」
嘘ついた。
「風邪薬、出すか?」
「いらないよ。寝れば治るから」


部屋で、制服を脱ぎ散らかす。
手元のシャツに袖を通し、ベッドに潜る。
布団が冷たい。
柔らかいけど。

「………上時………」
布団に突っ伏して、言う。

何があったのか………。
頭の中が整理出来ていない。

後ろ楯がない。
薄い氷の上に、前橋組が成り立っている。
割れたら。
沈む。
沈んだら。

なくなるよね?
その後は………?

どこが、『総長』を名乗る?
誰が、『総長』を名乗る?

分からない。


考えても、答えは出てこない。
いつの間にか、寝ていて。
起きたら、夜だった。

「………酷い顔」
無意識で、泣いていたのか、目元が腫れている。
酷いなぁ。
< 155 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop