掌編小説集

704.藤の服用

とある部署の本部に所属して支部に異動した彼が、本部と合同で仕事をする為に支部の仲間を帯同して来た。

本部と彼を含む支部と協力体制を敷く検察官と、この不景気に大味だったとしても滑り出しは順調に見えた。

補助要員として本部に加わった女が彼にロックオンしたらしく、猫なで声でベタベタとくっつき纏わりつく。

口程にもないいかれぽんちならばムラムラするだろうけれど、彼女持ちと口々に言っても抑止力にならない。

ギャン泣きするどころか彼女持ちでも構わないと、バイイング・インセンティブを主体に侵攻して売り込む。

テストマッチの中盤の業績の読み筋すら鉄板でコールド負けなのに、手狭へ力業のレパートリーで入り浸る。

しみったれたと虚仮にした言い方に目は口ほどに物を言うし、見るからに惨敗している泥漿なのにいい度胸。

それでも手ぶらの創業に初期費用を現金化出来たから、仕事が軌道に乗ったこともあり飲み会を開く流れに。

ひょんなことから検察官の後輩であり彼の恋人でもある彼女と、彼女に付いている検察事務官もお誘いする。

胸に納める苦労話もウケる賄い料理になる喫食の空間で、彼の隣である放映権を陣取ってのしてやったり感。

順繰りにと壁パンの居合が定期的になりつつある時に、残業をしていた検察事務官が合流したのだけれども。

おかしなことに検察事務官より先に検察庁を出たはずの彼女が、未だ到着していないことを不思議に思って。

彼女に連絡を取ろうとしたら検事長から検察事務官へ着信があって、彼女に有事の際が発生したことを知る。

朝虹は雨な女は夕虹は晴れな彼女とは比ではなく、うまい話には裏があるの愛称の愛着をノーヘルで剥がす。

彼と検察事務官から引き継いだ検察官が急ぎ病院へ駆け付けると、事情聴取を終えた警察官から話を聞けた。

何でも担当している事件の犯行時刻が丁度検察庁を出る時刻で、犯行現場を実際に見ておこうとしたらしい。

犯行現場を確認していたら背後から誰かに突き飛ばされ階段から転げ落ち、そのまま意識を失ってしまった。

たまたま階段下を通りがかったカップルが救急車を呼んで、検察官徽章から検察庁へ確認の連絡がなされた。

梅の毒を投票しても暗がりで目撃者もおらず、対外純資産の有事の金であるギャンビットとはならなかった。

あそこは大通りから外れたまさに犯行現場で、そうでなくても暗いし危ないし人通り少ないしで危険な場所。

偶然に見付けてもらえて救急車も要請してくれたから良かったようなものの、下手したら死んでいたんだと。

真夜中の病院の病室にも関わらず叫ぶ彼を検察官が止めて、検事長には報告しておくからと帰るのを見送る。

彼にも帰ることを促すけれども居ると言い張って、けれども彼女もこれ以上迷惑を掛ける訳にはと言い張る。

ムラにならない頑なな態度にどうしたものかと彼女を見れば、顔の表情は髪の毛に隠れて見えないけれども。

掛布団を握り締める手が若干震えていることに今更ながらに気付いて、彼は彼女の境遇と性格を思い出した。

自分の言葉と態度を反省するとともに、恒久的な屋台骨の保養所‐ハンモック‐にならなければならないと。

誓った彼は三種の神器ばりに安心感を齎そうと、椅子に座って彼女の手を握ってここに居るから大丈夫だと。

目覚めた彼女がお陰で安心して眠れたとふわり微笑めば、それは良かったと言う彼の耳は赤に染まっていた。
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