優しい君に恋をして【完】






私は首を振って、優の背中から手を離し、


手話をつけながら話し始めた。



「優は何も悪くない。


優が頑張ることじゃないよ。



悪いのは、お母さんだよ。



私......優と一緒にいられないなら、


こんな家......出ていきたい」




「だめだよ



そんなこと言ったら、だめだ」


私が言い終わるとすぐに、優が真剣な表情でそう言ってきた。




「俺が いけないんだ



こうなることは わかってた



でももう俺は 逃げないよ



あすかを 大切にしたい





大切にしたいんだ」




一生懸命喋ってくれて、その想いが、

痛いほど伝わってきた。





「あすかのために 何ができるのか



俺は あすかために 何をするべきなのか



よく 考えてみるよ」





私のために......


ふと嫌な予感がして、優の手をぎゅっと握った。



すると優が首を傾げて、私の顔を覗き込んできたから、


そっと手を離して、指を動かした。




「私のために 別れるなんてことだけはしないで......



そんなの......全然私のためなんかじゃないからね



別れるなんて嫌......



絶対に嫌



ずっと一緒にいるって約束して」




自分の左右の小指どうしを指切りして、【約束】の手話を優に突き出すと、

優は私の左手をそっと引っ張って、



指切りを外し、



自分の右手の小指を、私の右手の小指に絡めて、


指切りをした。






そしてゆっくりと指を離すと、



開いた両手を上下に置き、自分に引きつけ、


胸の前でぎゅっと握りしめた。





「約束するよ」












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