別れの理由
「拳斗くん…?」
しばらくスマホを持ったまま指が止まっていた俺の横に座って、
彼女は静かに話しかけてきた。
俺は、慌ててスマホを操作し始める。
かなりの気まずさを感じながら。
「そんな風にさ…女性を喜ばせてばかりじゃダメよ?」
「アホか……、そんなんとちゃうわ」
「もし……、もしよ?あたしが今哀しみに暮れてたとしたら、拳斗くんに恋してしまうじゃない」
「それでええんと違うん?」
「どうしてそうなるのよ」
彼女は、そう言って、困ったように黒髪をかきあげた。
「だって、今、哀しいんやろ?」
「……だから、そんなこと言うのはやめて…」
「せやったら、俺に恋したらええやん」
彼女は、ふふっと笑うと
「ありがと。でもあたし…そんな可愛い女じゃないから……」
そう言って、席を立とうとした。
俺は彼女の腕を掴み、強引にキスをした。
強く、彼女が逃げてしまわないように……。
「俺を好きになったらええねん…」
「やめて、拳人くん。優しくするのはやめて」
彼女は、俺の腕を払おうと抵抗する。
俺は、
そんな彼女を思い切り抱き寄せ、耳元で呟いた。
「ええから。俺のゆうこと聞いとけ」
彼女の全身の力が抜けたのがわかった。
彼女は無言で、
白くしなやかな腕を俺の首に回し、
もう一度二人は長いキスをした。
すでに真っ暗になった通りに、
二人の姿が、
映画のシーンのように映し出されていることを気にもせずに……。