別れの理由

「…で、今日はどうして臨時休業なんだ?」

すっかり酔いつぶれ、固めた髪も乱れ始めた成一郎が訊ねた。

「田舎に帰るって、朝ライン入ってましたけど?」

「田舎?めずらしいな?あいつここ何年か、盆も正月も帰ったことないはずだぜ?」

同じく、より一層オヤジ化した裕次は不思議がった。

「そうなんすか?なんか…友達に用事あるらしいっすよ?」

俺は、《記念日》が、その友達に負けてしまった悔しさを二人に悟られないように、
スマホを触りながら、何食わぬ顔で答えた。

すると、

「友達……?それも珍しいな。アイツ、田舎に友達なんて…」

と言いかけて、はっと言葉を止めた裕次は、慌てて成一郎のお猪口に酒を注いだ。


俺は、
その時、すべてを察した気がした。

「なんなんすか?一体……」

俺は二人に訊いた。
スマホを握っていることも忘れ、
ただ夢中になって訊いた。

「いや…なにもない」

しかし、二人の顔が、なにかがあることを物語っていて。

俺は、その時思い出していた。


あの彼女の刺青。

そして、

知らないはずのないこの二人が、
今日、一度だって、そのことに触れなかったことを。



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