別れの理由

次の日の夜、彼女が帰ってきた。

彼女は、
鼻歌を歌いながら助手席の窓を少し開けて、風に身を任せている。

俺は、
運転しながら彼女に話しかけた。


「なんや?やけに嬉しそうやの?」

「そう?」

「田舎でええことあったんか?」

俺のその言葉には、少し違う意味が込められていて。
彼女は、シートに身を任せ、風に吹かれながら答えた。

「別になにも?」

「なにもなくはないやろ?」

俺のその言葉には、全く違う意味が込められていて。


「しいて言えば、何事もなく無事一年たったことかな……あれ?ひょっとして覚えてくれてた?」

「……ぁ、あー覚えてる」

「へ~そうなんだ。男の人って、そういうの覚えてないって思ってた」

そう言いながら、
彼女は風に吹かれて乱れた髪をかきあげてまた鼻歌を歌う。

ドライブがてらに走る山道の街灯が、
そんな彼女の顔をピンスポットのように照らしていた。


――ほんまにそれだけか?


俺はそう訊けなかった。


――《記念日》を覚えてない?誰と比べて言うとんねん。


それも、口には出せなかった。


その日俺は、
俺に、どうしろと言われてるのかさえもわからずに、
だからって、俺が、どうすれば良いかも分からずに、
今、俺の腕の中にいる愛おしい彼女を悦ばせるよりも、
ただ、ただ、自分を慰めるように彼女を抱いた。



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