別れの理由
あの日、二人に聞かされた真実。
「ま、その話はよそう…」
日本酒を飲みながら、成一郎が、話題を変えようとした。
俺は、それを遮るように口を挟む。
「あいつの前の男は、一体何者なんすか?」
――何者って…そんなもんはわかってるやろ。
俺は、そう自分に突っ込みながらも、奴の話題をやめることをしなかった。
俺には、それを聞く権利があるから。
二人は、顔を見合わせ、どちらも口を閉ざした。
「俺がそのこと知ったらアカン理由なんてあるんすか?」
「いや、そんなわけじゃない」裕二がバツ悪そうにそう答える。
「なら、俺、なんでも聞きますよ?」
「だけど、今、なにも知らないってことはだな、アイツが知られたくないってことだって可能性もあるだろ?」
「そうだ、拳人。世の中知らない方がうまくいくってこともあるだろ?今、二人が幸せならそれでいいじゃないか」
そう言って、成一郎は「こいつに生」と、店員に声をかけた。
はい、お待ち!そう言って、笑顔を向ける店員には顔を向けず、俺は二人に言った。
「アイツの幸せを決めるのは二人とは違いますやん。今、アイツが幸せかどうかは、俺が判断しますから」
裕次は、いつになく真剣な俺を見て、
「それもそうだな」と、諦めるかのように話し始めた。
「わかった。よく聞け?今はカタギの拳斗と違って、奴はまだ現役だ」
そうすか、と俺は呟いた。
「じゃあなんで別れたんです?」
「別れたかどうかは俺らは聞かされてない」
「……?」
「今、奴は服役中なんだ…」
「奴は何かヘタ打ったんすか?」
「いや…。ヘタ打ったわけじゃない。オジキらしき人の身代わりらしくてな。出てきたら若頭待遇らしいな……」
「…………」
「奴はあいつより、組を選んだってことだろ」