別れの理由
彼女は、俺より五つも年上だった。
小さなカフェを経営する女性実業家。
真っ白な内装に、大きな窓。
店内のあちこちに置かれた観葉植物と、アンティークなアートが飾られたカフェは、
まるでサンテラスのように明るく、
いつも真っ白なシャツを着た彼女の美しさを、より一層際立てる。
俺の自慢の彼女。
俺が彼女と知り合ったのは、会社の上司に連れられて初めて店へ行った日のこと。
上司と彼女は同級生。
詳しく言えば、上司の連れが、彼女の彼氏。
そんなことを最初から聞かされていたためか、
俺が、初めて彼女の笑顔を見た時のあの衝撃は、
カップに残る、ブラックコーヒーの量と正比例し、
いつの間にか、薄らいでいった。
だって、
俺は、ただの男。
何もあるはずはないから。
そんなことは、有り得ないから。
期待なんて、持つだけ無意味だから。
それなのに、
帰り際、
「拳斗くん…また来てね!今度はゆっくり話そう?」
そう言って、彼女は俺の腕に触れた。