別れの理由
二人は、同じ哀しい目をしていた。
二人にしかわからない、哀しい目を……。
俺は、彼女のその目を作る原因を探っていた。
だけど、それはあまりにもあからさまで。
――アイツやな。
時々閉店近くにやってくる、あの男。
上司の連れで、二・三度一緒に飲んだことがあるあの男。
どこかの雑誌の編集長だか、なんだかのキザな野郎。
いつも忙しそうで、満足に彼女と会ってもいないであろう、あの男。
――アイツ……。
だからって、俺はただの男。
毎日、ニッカポッカはいて、作業現場の足場を組むだけの、ただの男。
作業着のままでは、彼女のいるこのカフェにだって来るのを躊躇する。
でも、彼女は言うから。
「拳斗君のその格好、男らしくて好きかも」
その……、俺には不釣り合いの、美しい容姿のままで。
――俺……お前が好きやわ。
たぶん。
そう……、たぶん。
だって、
俺は誰かを愛したことはないから。