別れの理由
「うまくいってんの?」
アルコールランプの優しい炎に焚きあげられ、
サイフォンから落ちる珈琲を見つめている彼女に、
俺は、
スマホを読むふりしながら訊いた。
「はっ?」
「彼氏…ほら…なんとか出版の…」
「ああ~成ちゃん?成一郎のこと?」
「うん。そいつと付き合ってるって聞いたけど」
「裕二がそう言ってるだけでしょ?」
裕二というのが、俺の上司。
すると、
「裕二は誰にでもそうやって言いふらしてるの。あたしに、変な虫がつかないようにって。
成一郎は、あたしの従兄なの」
「そ…そうなん?」
「そう。裕二のせいで、あたしはいっつもフリー」
そう言うと、彼女は少し悪戯っぽく笑った。
――なんよ…それ……。
「じゃあ、みんなにそう言えばええのに」
「ま、言ってもいいんだけど、ってより、そのほうが何かと楽なこともあるじゃない?」
「なら、俺にもそれで通したらよかったのに…」
それなら、俺が、今、こんなに苦しむことはなかったのに。
そして、
俺が、こんなにもキミを愛することはなかったのに。
二人だけにしか聞こえない、
時を刻む音が静かに響いた。
その時を止めるように、
「うん…でも、拳斗君には、全部見透かされてる気がしたから」
彼女は珈琲を注ぐカップから目を離さずに、そう答えた。
「聞きたくなかったな…」
「えっ?」
「そんなん聞いてしもたら、俺を抑えてるもんがなくなるやん…」