体育館12:25~私のみる景色~

 もしかしたら、あの時私がぶつかった人もこのお店で働いていた人なのかもしれない。


 顔も声もわからないから、探すことなんて無理なんだけど。


 だけどなぜだか、また会えそうな気がする。


「そうだ、亜希もなんか買ったの?」


 じっとプリントアウトされたその紙を見つめていると、みーくんにそう尋ねられた。


 私の手元の小さな鉢に入った赤いゼラニウムが、ゆらゆらと揺れている。


「あ、ああ、これ? 傷が付いちゃったからって、慶ちゃん先輩と佐伯先輩からもらったんだよ」


 花が見えるように袋から少し出してみーくんに見せ、もう一度先輩たちにお礼を言った。


 みーくんはそれを見たあと、挑戦的な不敵とも言えるような笑みを浮かべた。


「赤いゼラニウムねえ……?」


 みーくんが言うと、佐伯先輩と慶ちゃん先輩はぴくりと身体を揺らした。


「これがどうかしたの?」


 どうしたんだろ、って不思議に思って聞いてみるけど。


「なんでもないよ? ただ、このセンパイたちはどんな意味でこれを渡したのかなと思っただけだよ」


 意味?


 意味ってなんの?


 そう思うけど、答えなんか出るわけもなくて。


「それじゃ、お世話になりました」


 先輩たちをちらりと横目で見たみーくんは、なぜかすごく楽しそうに私の手をひいて歩き出した。
< 315 / 549 >

この作品をシェア

pagetop