身代わり姫君の異世界恋綺譚
――なんかの撮影じゃない……。

この状況をしっかり把握しようと頭をフル回転させていると、紫鬼が口を開いた。

「お前はどこの者だ?」

「私は……21世紀……平成……もうっ! なんて言ったらいいのか分からないっ」

――まったくこの人たちと話がかみ合わない。私はいったいどうしちゃったの? この人たちが騙そうとしているの? それとも……本当に……。

真白はハッとした。

――そうだ、私の世界は冬だったのに……ここは虫が鳴いていた。まるで夏の夜……。

真白は傷みこわばる身体で布団を出ると、壁を伝いながらよろよろと障子を開けた。

廊下の先はとてつもなく広い庭が見えた。

空はいつの間にか白んでいたのだ。

だが、空に浮かぶ大きな満月は、手を伸ばせば触れられるくらい近くに見える。

しかも月は紫鬼の瞳のように紅かった。

しだいに恐怖が心の中に湧き上がり……。

「こんな……こんな月……私、知らないっ!」

真白は両手で顔を覆い、叫んでいた。

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