身代わり姫君の異世界恋綺譚
「清雅、この者をこちらで面倒見るのだ」

紫鬼の言葉に、清雅は「えっ?」と驚く。

「この者は興味深い。それに素性がわからぬ者を、放り出せまい」

廊下で崩れるようにして座わり、泣く真白。

その震える後姿は、か弱い小動物に見えた。

清雅は真白と紫鬼を交互に見比べ思う。

――紫鬼が初めて見る相手に、これほど気にかけるのを見た事がないぞ。

清雅は仕方なく、真白に近づくと肩に手を置いた。

「お前の名はなんと言うのだ?」

「……かっ……上……条……うっく……真白……ううっ……」

「真白……」

――聞いたことのない名じゃ。

清雅は真白の名前を繰り返した。



この日から真白は訳のわからない時代のこの家に居候することになった。

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