他人の彼氏
「しかも、その上着
お前のじゃねぇだろ?」


「寒かったから・・・
借りて・・・」


「誰に?何、お前
男いねぇんじゃねぇの?」


「そういうんじゃなくて・・・」


こんなふうに追い込まれた事がない私にとって
この状況というものは
若干 恐怖を感じてしまうものであり・・・


オドオドと、うまく言葉にならない。



「じゃー、誰?」


「たこ焼やさんの
お兄さんに・・・」


「へぇ・・・・?
寒いから貸して下さい、
はい、どうぞって?
何?お前
男なら 誰でもいいってやつか?」


そんな言い方・・・・


他の人に、そう言われるなら
何とも思わないけれど

黒崎伸治から
そんな言葉を聞くと

私自身を否定されたみたいで

悲しくて、苦しくて


「もう、いい・・・」


涙を堪えるのが精一杯で、
玄関の方に行こうと
振り向くと


「お、おい!?」


黒崎伸治に腕を掴まれ
うつむく私の顔を覗きこむと


「あーもう!泣くなよ。
悪かった、言いすぎた」


そう言いながら
そのまま抱きしめられた。

そんな事をされると、

苦しいのに、うれしくて

ますます涙が止まらなくなってしまう。



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