辺りはもうすっかり暗く、肌寒くなっていた。

竹林を抜けるとそこはまるで時代劇さながらの風景が広がる。

街灯もなく、ぽつりぽつりと提灯から漏れる火の灯。

道路もコンクリートで舗装されているわけでもなく、ジャリと時折砂を咬む音が響く。

叶はただ驚くばかりで不安が波のように押し寄せていた。

誰も口を開かぬまま歩き続ける。

然程の距離ではない筈なのに、叶にはとてつもなく長い距離に感じた。


「随分遅かったじゃねえか。」


不機嫌と言わんばかりの声に叶は顔を上げた。


「そうですか?」


先頭を歩いていた沖田がさらりと答え、腕組みをして立っていた土方の横を通りすぎる。


「総司、何処へ行く気だ?」

「大方広間にでも皆を集めて話し合いでもするんでしょ?」


土方の問に首だけ向けた。


「いや、その女はあっちだ。」


土方は顎をくいっとし、暗闇の向こうを差す。


「まさか、こんな女の子をあそこに入れるつもりですか?」

「まさかじゃねえ。斎藤、連れていけ。」

「はっ。」


自分がどこに連れていかれるかわからぬまま、そんなやり取りをただ呆然と見ていた叶。

斎藤に掴まれたままの腕に力が隠り、ハッと我に返る。


「あ、あの……ここは?」


斎藤へ聞いてみる。


「屯所だ。あんたは暫くの間あそこに居てもらう事となった。」


斎藤の視線の先は暗闇で何が在るのかはわからなかった。



「あそこ?」


叶の呟きが聞こえたのか、聞こえていないのか、斎藤と叶は闇の向こうへ歩き出す。

少し不満気な沖田はそのまま屯所内へと消えていった。
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