その後に流れるのは沈黙。

叶も沖田は視線を叶から外さずとも、声を発する事はなかった。

そうしているうちに遠くから聞こえてくる足音。

仔猫を抱いていた叶も、叶を見ていた沖田も障子戸へと顔を向ける。

その足音がいっそう近付いたところで沖田はその戸を開け、出ていった。



「ミャー」



仔猫は小さく鳴くと、叶の腕をすり抜け、沖田を追う様に走っていった。

開け放たれた障子戸をぼんやり眺めていると桶を持った原田が現れる。



「待たせたな。お?総司は何処か行っちまったか?」

「今さっき出ていきました。」



原田は叶の足を取ると桶の水に浸した手拭いで指の一つ一つを丁寧に拭きあげる。

その動作をただじっと見つめる叶。



「すまねえな、手当てなんて豪語しといてこんな事くらいしかできねえが、何もしないよりましだと思うぜ。」

「いえ、十分です。ありがとうございます。」



叶の指を拭き終えた原田は



「よし、これでいいだろ。」



そう言って立ち上がると、叶の頭にポンと手を置く。



「な、叶。お前さんにも事情はあるんだろうと思うぜ。だがな、」

「分かってます。」



叶は原田の言葉を遮る。



「本当の事を話したら信じて貰えるんすか?とても信じて貰えるとは思えません。」



叶の頭の手を外し、原田は腕組みをする。



「そうだな、まだ話しを聞いてねえ事だし。分からねえな。」




ー…………ごもっともでー



「けどよ、ここの連中は、真実か、そうでないかを見極める目くれえは持ち合わせてるぜ。」



原田は腕を解くと叶の前に差し出す。



「だからよ、取り敢えずきちんと話してみてくれよ。」



叶は吸い込まれる様に差し出された手を取った。
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