その頃、部屋を出た沖田は叶が閉じ込められていた蔵の前に居た。

苛立ちを隠せない顔付きで砂利を蹴る。



「くそっ!」



ふと、蹴り上げた足とは逆の足に何かが触れる。



「おまえ……」



叶の腕にいた筈の仔猫が沖田の足に擦り寄っていた。



「君さ、黒いんだし、辺りは暗いし、気を付けてよ。踏んじゃったら大変じゃないか。」



クスリと笑い仔猫を抱き上げる。



「ね、あの子は何者?あの唄は何処の唄?どうして僕は……」

「あっ!いたいた!おーい、総司ー。」



耽ける間もなく沖田を呼ぶ声。

盛大に溜息を吐き、声の主に冷ややかな視線を向ける。



「何?平助。」

「っと、何だよ、すっげー不機嫌だな。」

「だから?何?」

「土方さんから招集かかってんぞ。広間に集まれってよ。」



土方からの招集。

それが今意味するのは叶の審議だと言う事は誰に聞かずとも分かる。

沖田は抱き上げた仔猫を下ろす。



「いい子だから、此処に居てよね。」



一撫でし、屯所内へと姿を消した。
< 33 / 55 >

この作品をシェア

pagetop