ただ、名前を呼んで

ぼんやりとその光景を眺めて居ると、母がこちらに視線を向けた。


「あのこ、誰?」


さっき会ったことをもう忘れているのだろうか。
母は僕を指さし、そばに居た内藤さんに尋ねた。


「彼は……知人の子供だ。今日は預かっているんだ。」


内藤さんがチラチラと僕を見ながらそう答える。

僕の正体は明かせない。

母がじっとこちらを見ているので、精一杯さりげなく微笑んで見せる。


「はじめまして……。」


今、笑えているだろうか。
< 163 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop