ただ、名前を呼んで

それからの僕は母の所へあまり行かないようにしている。

母が父の記憶を思い出し始めているので、僕が行けば刺激してしまうだろうから。


一度こっそり覗きに行ったけど、目を塞ぎたくなるような母の姿があった。

父の名前をしきりに呼び、泣き叫ぶ母の姿。

内藤さんに聞いた話では、父が死んだことについてはまだ言ってないらしい。

だけど母は口癖のように聞く。


「拓郎は?」

「拓郎はどこ?」

「どうして会いに来ないの?」


……って。
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