12 love storys
「棚橋さん、この資料ですけど
もう少し、数字細かく出して
いただけますか?
例えば年毎だけではなく月毎も。」


実に丁寧な物言いで、
課長の石倉さんは続けて
決まってこう言うのだ。


「宜しくどうぞ。」


と、
全く目が笑っていない笑顔で……。


こ、怖いんですけど……。


そう、イケメンの石倉課長が
どうして社内で話題にならないかと言うと、
兎に角、あの絶対的な威圧感の前に
みんな、心が折れてしまうのだ。


もちろん、中には石倉課長に
思いをぶつけた強者もいるらしい。


けれど、秒殺だったそうだ。


「結婚相手を探しに会社へ
来ておられるなら、
良い結婚相談所、紹介しましょうか?」


と、
全くの無表情で言われたらしいとか……。


こ、怖すぎる。


そんな課長の元で私は
一緒に仕事をしているのだ。
この威圧感に打ちのめされつつも……。


そして、12月に入り、
いよいよクリスマスシーズン到来!


というときに、
私は課長と新しいシステムの件で
連日残業をしていた。


「課長、さっき仰った所、
こんな感じですけど大丈夫でしょうか?」


と、
言われた資料を差し出す。


ゆっくりと資料に目を通す課長。





……
…………
………………
……………………
…………………………


ダメだっ
この沈黙に堪えらんないっ!
沈黙に耐えきれず思わず言葉が出る。


「どこか直し必要な所はーーー」
「今、チェックしてますので。」


「す、すいません……。」


く、苦しい……。
この、威圧感……。
三分とて持たないよ。


「はい、良いでしょう。
ご苦労様、今日は上がって頂いて
結構ですよ。」


ホッ、
ラッキー!
この恐ろしく重厚な空間から
やっと抜け出せる。


私はそそくさと、
帰り支度を整え、
オフィスを後にした。



















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