上司のヒミツと私のウソ
「例の資料、そろそろ返していただきたいんですが」

 そうきたか。

「資料?」

「はい。お忘れですか。月曜日にお渡しした製品資料です。返していただかないと、とっても困るんですけど」


 西森は優等生スマイルを浮かべて、よく通る上品ぶった声ではきはきといった。近くの席の何人かがなにげなくふりむく。


「ああ、あれですか。すみません、もう少しだけ調べたいことがあるので、待ってください。来週には返せるとおもいますので」

「来週ですね」

 一瞬鋭い目を俺に向けて、西森は席にもどっていった。


 あのようすでは、やはりあきらめる気はないらしい。


 あのファイル。

 あれだけの資料を揃えるのに、どのくらい時間と手間を要したのだろう。西森がひとりでやったとは考えにくいから、本間が手伝ったのかもしれない。おそらくそうなのだろう。


 たしかめるために、七階の開発部を訪ねた。
< 317 / 663 >

この作品をシェア

pagetop