上司のヒミツと私のウソ
 執務室を横切ってまっすぐ本間のデスクの前まで歩いていき、「話したいことがあるんですが」というと、本間は唖然として俺を見上げた。

「なんなんだ、怖い顔して」


 そのまま空いているミーティングルームに移動した。

 ドアを閉めるとすぐに、「実はこっちも聞きたいことがあったんだ。ちょうどよかった」と本間がいった。


「では、お先にどうぞ」

「いや、俺は後でいいよ。それよりそっちの話を聞きたい」


 本間は奇妙な笑みを浮かべて、手近な椅子に腰かけた。

「そうですか。では単刀直入にいいます。西森さんに余計なことを吹きこむのはやめてください」

 眉間に皺をよせて、本間が首をひねった。


「余計なこと?」

「お蔵入りになった企画にいつまでもこだわっていられるほど、うちは暇じゃないんです。フレーバーティーの中止は会社が下した決定です。あきらめきれないなら、あなたがひとりでやればいい。彼女を巻きこまないでください」

 口を半開きにして、本間はまじまじと俺を見た。
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