上司のヒミツと私のウソ
 西森は黙ってうなずいた。

 だが、思い直したように顔をあげた。


「私の企画のことは、もう忘れてください」

 はっきりといったあと、急にうろたえたように視線を泳がせ口ごもった。


「あの……私は別に、自分の企画が採用されることを、いちばん望んでいたわけじゃないんです」

 慎重に言葉を選び、ゆっくりと話す。


「三年前、『一期一会』の番組を見たときから、憧れていたんです。自分には無理だってわかってたけど、それでも、加わりたいっておもったんです。あの輪の中に、自分もいたいって」


 西森の、嘘ではない言葉が、まっすぐにつたわって胸のどまん中に入ってくる。


「ひとりひとりが、自分のできることを精一杯やって、自分にできないことを誰かに頼んで。それぞれが、それぞれの力を信じて。そうやって何かを作り上げていくことが、とてもうらやましかった。私はただ、あの中にいたかっただけです。自分の企画じゃなくても、誰かの企画でも、あの輪に加われるなら、それで……」


 声はだんだん尻すぼみになって、最後はかすれたように途切れてしまった。
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