上司のヒミツと私のウソ
 おもわず語気が変わってしまい、部長が顔をしかめる。

「まずかったか?」

「いえ、そういうわけでは」


 それでようやくわかった。西森が、ひとりでこそこそとあの資料を作っていた理由が。


「今度のことは、彼女も納得しています」

「そうか。ならいい」


 部長室を出たとき、フロアにいた企画部の何人かと目が合った。とたん、全員ばつが悪そうに目を逸らし、知らぬふりで仕事を続ける。


 『一期一会』の広告企画が美舟園のドタキャンによって変更になったことは、既に企画部には知れ渡っている。

 全社に情報が行き渡るのは時間の問題だった。


 この一件で佐野が責任を問われることのないように尽くしたつもりだが、社内に出回るいたけれどまでは手の施しようがない。

 しばらく、気を抜くことはできそうになかった。


 新製品検討会議に、開発部の本間がエントリーしたことは聞いていた。

 俺へのあてつけかもしれないが、本間のことだからいい加減な気持ちではないだろう。企画部が手を引いたとなれば、本間の提案が採用される可能性は高い。

 だが、未練はなかった。
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