上司のヒミツと私のウソ
 私が戦闘態勢に入ったことを察知したのか、矢神の眼が残忍な光を帯びたような気がした。


「その台詞、そっくり返してやるよ」

「あなたに憧れてる女性社員がかわいそう。本当のことを知ったらさぞかし幻滅するでしょうね」

「そっちこそ、社内の男どもに媚び売って機嫌取りして、毎日たいへんだな。でもよかったじゃないか。念願かなって企画部に転属が決まって。どうせ部長に取り入っておねだりしたんだろ」

「な……!」


「いいかげんにしなさい!」

 突然、甲高い鋭い声が割って入った。


「痴話喧嘩なら外でやりなさい! ほかのお客さんにご迷惑でしょう!」

 律子さんと呼ばれていた女性が、仁王像のような形相で立っていた。


 夢中になっていて気づかなかったけれど、狭い店の中では二人のやりとりは筒抜けで、客が全員こちらに注目している。恥ずかしさのあまり顔が熱くなった。

「ほら、立って」

 いきなり矢神の腕を取り、無理矢理引っ張って椅子から立ち上がらせる。
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