上司のヒミツと私のウソ
「それでよく松本に手を貸そうなんておもえたな」

 半分呆れて、溜息が出た。

「は?」

「ひとの恋愛相談に乗れるほど、経験があるようには見えない」


 西森の顔が羞恥に赤く染まった。

 だがすぐに怒りに変わって、敵意むき出しの震える目で俺を見上げた。


「よけいな、お世話です」


 冷静を装おうとして、声が低くくぐもっている。


「前に付き合ってたからって、なにもかもわかってるみたいなこと、いわないでください。あのときは、お互いなにも知らないまま、付き合ってたんですから」


 そうかな、と俺は反論した。

「ひとつくらい、わかったこともあるんじゃないか。たとえば」


 すばやく西森の手をとって引きよせると同時に、身を屈めてキスをした。

 さらに体を傾けて舌を押し入れ、何度か深くさぐったあとで唇を離すと、西森はぼう然として俺の腕によりかかっていた。


「キスが下手だ」

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