上司のヒミツと私のウソ



 執務室にもどると、俺のデスクの脇に知らない女が立っていた。

 肩の上で切りそろえたストレートの黒髪が、窓から射しこむ光にきれいな艶を描いている。

 誰だろうとおもったら、女が振り向いて「おはようございます」と聞き慣れた声で挨拶した。


「……安田?」


 既に出社している社員たちが好奇の目を向けている。

 そりゃそうだろう。

 髪の色もメイクも昨日までとは大違いで、まるで別人なのだ。


「この前のお話、進めてもらえないでしょうか」

「え?」

 安田は俺に向かってにっこりほほえみかけた。


「『RED』に参加します。正社員の手続きをとってください」

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